レーザー事故

no titleを見て,なんか違和感と言うか,ロシア怖いと言うか,妙な感じを受ける.通常空に向けるものを屋内に使ったからと言って失明するようなレーザーをイベントごときに使うのはおかしい.

基本的にレーザーは危ないので,それを反映してけっこう厳密にクラス分けがなされている.(ネットに上がってる中ではphoto_guide_laser.pdfが一番読みやすかった)

簡単にまとめると,

クラス1
眼にレンズで集光した上で長時間のぞいても大丈夫(双眼鏡をのぞいてる人にそのレーザーがうっかり直撃してすら大丈夫と言う意味)
クラス1M
眼に集光しない状態で長時間あたっても大丈夫
クラス2
眩しいと思って即座に目を閉じると,集光した状態でも大丈夫
クラス2M
眩しいと思って即座に目を閉じると,集光していない状態なら大丈夫.
クラス3R
5mW以下.強いレーザーポインタが5mWぴったりだったりするのは最悪この基準に収めるためだったかな
クラス3B
何かにあたって拡散した光なら大丈夫.(壁とかに出来たスポットを見る限りなら大丈夫)
クラス4
どんな状態でも危険

ちなみに,少し前に名古屋大で見学に来た学生を失明に追い込んだのは最後のクラス4のレーザーのはず.

で,イベント用にはどれくらいのレベルのレーザーが使われてるのかなと調べたら3Bらしい(たとえば,no title).クラス2Mが上限かなと思ってたので少し驚く.ただ,クラス3Bでも壁に当たったスポットを見る程度なら,それがもし白い壁でも失明しない.今回のロシアの場合にはテントらしいので,天井に金属のパイプがある可能性が高い.それにたまたま当たったのが広がって直線上の人をやっちゃう可能性があってこれは危ない.ただ,その場合でもそこそこ広がるから,失明するまでに至るのかはけっこう微妙.

もちろん,天井に鏡のようなものがあった場合にはそれに反射して当然のように失明に追いやる.もしそれだとすれば,屋内でやったのが問題なのではなく,そういう天井を用意したのが問題だときちんと報道すべき.もしくは,ロシア怖いでクラス4のレーザーを普通にイベントで使っていたのかも知れない.それなら,別に上が空だったとしてもたぶん法令的には許されないはずでそこをきちんと指摘するべき.

最後に,レーザーの波長によっては網膜を焼くとは限らない.

可視光のレーザーはその光を網膜で検知できるのだから当然だけど網膜を焼く.レーザー光は悲しいことに平行光なので,空を見ていたりするとちょうど網膜に焦点をむすんで効果的に網膜を焼く.

紫外線とか赤外線のレーザーだと,水晶体とか角膜に吸収されてそこまで到達できない.今なら水晶体とか角膜とかなら最悪移植できるはずだから,だいぶマシなんじゃないかと個人的には思う.加工用のレーザーは使いやすいレーザーの波長がそこら辺と言うそれだけの理由でたいてい赤外線.

追記

no titleにその時の写真が載ってるんだけど,屋外とか屋内ってレベルじゃない…

人に直接当てれば焼けるだろ,常識で考えて.

追記2

レーザー光線を観客の目に照射、30人超が失明か - GIGAZINEに専門家と称する人間のコメントが載ってるんだけど,観客にレーザをぶちあてると言う危険行為にオーディエンススキャニングと言う名前がついていて,そういう業界ではそんなに珍しくない行為だそうな.ほんとそういう業界に住んでなくて良かった.

そりゃ,いくら強いレーザーでもスポットを広げてエネルギー密度落としたり,スキャン速度上げて一瞬しか当たらないようにすれば大丈夫だってのは計算すればわかるんだけど,やってることはクラス2のレーザーポインタをプレゼン中に得意げに観客にあててるのと変わらんわけで.そんな行為がただかっこいいから的な理由で許される空間なんて反吐が出る.

あと,記事中の

本来こういった機器は数百万~数千万円する機器なのですが、安価(数万円~)で質の悪い、保護装置の付いていないレーザー機器が出回っているのも事実で、小さい会社がこれを使用し、知識のないオペレーターが操作しているのも事実……だそうです。

という記述はいただけない.もしこれがそのままの内容だとするならば専門家とは思えない.強いレーザーを人にあてるという野蛮な行為にあたって,保護装置なんて関係ない(各観客の眼の位置に光センサーをおいてあるなら別だけどねw).ちゃんとパワーメーターとかで観客の位置のパワー密度を計算するオペレータの技術力の問題.

ちなみに,本当に強いレーザーは部屋ごとに隔離して,そこから絶対に光を漏らさないことが義務づけられていたりする(大学で守っている研究室を見たことがないけど).これを実現するために,たとえば,その部屋のドアを開けると即座にレーザーの出力が止まったりする装置を取り付けることが確か義務づけられている.その意味での保護装置と言うのなら正解.ただ,人にあてるような野蛮な行為とは関係ない.