難しいと言われたのがショックだったので

液晶オタが非オタの彼女に液晶を軽く紹介するための10相 - smectic_gの日記が単語いっさい説明なしでハードコアすぎといわれたのがショックだったので,あげた液晶相の簡単な説明と言うか,Googleでどんな検索をすればいいかの簡単な説明.

  • SmA2

日本語だとかからない.英語だとかすかにかかる.が,論文のabstractが大半なのであまり役に立たない.まあ本文にも書いたけど古びを感じさせる液晶相なのでこんなもの.普通は分子1個でひとつの層をつくるのが,分子2コで1層を形成しているという相.

XRDをとると1層の厚さが測定できて,それがだいたい分子2個分になるので区別がつく(普通は,1層の厚さは分子1個分になる).ただ,顕微鏡でいくらのぞいても普通の1層が分子1個分のSmA相とは(SmA-SmA2相転移があって,特有の欠陥-知らんけど-が出てこない限り)区別つかない.

  • B2

こんなメジャーな相,絵付きで出てくるだろうと思ったら,B2だと全くGoogleから検索できないので焦った.そりゃハードコアと言われるわけだ.Banana liquid crystalと検索すると英語でいくつか説明が見つかる.が,あまり詳しくない.ちなみに,"B"は"Banana"ないしは"Bent-core"ないしは"Bow"ないしは"Boomerang"の略で,分子の形が棒状じゃなくて曲がっているという意味.その後の数字は(一応)相が見つかった順番.現在B8まである.なんで,"B"の意味が複数あるのかというと,Bananaなんて卑猥すぎて発音できませんという一派と,分子が曲がってて色も黄色っぽいのが多いからBananaでいいじゃん派と,もういいよBow(Boomerang)で派が未だに争ってるから.

まあ,これは説明不要だよね.検索すれば出てくるし.日本語のwikipediaの説明よりも英語のLiquid crystalの説明を読んだほうがいいかもしれない.

  • カラムナーヘキサゴナル相

日本語でも一応かかる.が,日本語で「カラムナー相」でイメージ検索すると8割以上が山形大のELをやってる某有名教授のblogの写真で締められるのにため息."Columnar phase"でイメージ検索するとそれっぽい絵が出てくる.

  • SmC*

Googleに限らず検索エンジンでこういう記号のはいった単語を検索するのは骨が折れる.というか,無理.SmCを教科書で引くと,「分子が層構造を作っているが,層内部では分子間の長距離秩序がない.分子は層に対して傾いている」と言うようなことが書かれているはず.「*」(スターと発音する)というのは,系にキラリティーがあると言うこと.系にキラリティーがあるおかげで鏡映面がなくなって,強誘電性がもたらされるのだけど,最初の論文はそんなことは当たり前じゃないかと言われてPRLを蹴られたというのは有名な話.

"ferroelectric liquid crystal"でイメージ検索するとそれっぽい絵が出てくる.日本語も「強誘電性液晶」で検索すればそこそこの結果が得られるかも.

  • ブルー相

Samsungの試作品で一躍有名に.話題になった時期が最近なのでGoogleでも検索結果に困らない.英語版wikipediaのBlue phase mode LCDの説明が詳しい.もしくは,九州大の菊池先生のページ.

  • AFLC

FLCがニッチに留まることが確定した今となってはなんというかすごい微妙な相.でも,「反強誘電性液晶」で検索すると意外と見つかる.

あと、de Gennes(isbn:9780198517856)とChandrasekhar(isbn:9780521427418)ってのは、液晶の有名な教科書なんだけど、どちらも少し古いので強誘電性液晶のことが一切載っていない(Chandrasekharの2nd Edには強誘電性液晶のことが載るようになったらしい。でも、反強誘電性液晶のことはきっと載ってないと思うけど)。

強誘電性液晶の教科書というと、福田-竹添(isbn:9784339005585)が一般的だと思うんだけど、これはこれで反強誘電性液晶の話はほとんど載ってない(と記憶している)。そして、上のようになってしまった今となってはだれも反強誘電性液晶の教科書を書くことはないと思う。

  • SmC*副次相

実は,こういう言い方しないような気がしないでもない.が,強誘電と反強誘電の間に無数にある一連の相をまとめていう言い方はなんかある.ここら辺の議論も当時はけっこう盛り上がったはずなんだけど,"devil's staircase"でこの元記事がけっこう上に来る辺りネットではないも同然.

  • B4

ごく最近まで,というか,下手をすると今でもこの相の構造はよくわかってない.ので,検索してもあまり見やすい図とかは出てきようがない.

B2あたりだとまだそれっぽい図が出てきたりもしたのだけど,これについては全く出てこない.なのでいろいろな意味で地雷.

  • バイアクシャルネマティック相

初稿では別の液晶相だったのだけど,身元バレしそうなマイナー液晶相だったので慌ててこれに差し替え.これもメジャーかと言われると微妙なんだけど,なぜかwikipedia英語版にBiaxial nematicの項目があるので,興味がある人はそれを参照してほしい.

これを使うとすごい応答速度の速いLCDが作れるんじゃないか的なことが期待されていたりした.まあ,100℃以下でこの相が出てくる材料を知らないけど.(ちなみに,RCAがつくった最初の液晶ディスプレイは駆動温度が100℃近かったりしたので,頑張ればどうにかなるのかも知れない)

ちなみに、元の記事を書いたときには屈曲型コア液晶で普通にサーモトロピックなバイアクシャルネマティック(Nb)が出るという話になっていたと思うのだが、いつの間にか実はそこらへん全部勘違いだったんじゃね的な風潮になっていて焦る。

液晶業界は結構こういうことが多い。自分の信じる道を進むべし。

2010-8-28 少し追記。