自分は好かんわ程度のことを「トンデモ」という人について

アホかー! - シートン俗物記

ひとまず、元のネタは論文が普通の査読誌(APLとか)に通ってるわけで、そんなものをわかりもしないのにトンデモとかいうから本当のトンデモがのさばるんだよということで。ひとまず、レーザー関係にのみ突っ込む。

まず、トンデモさんいらっしゃい。本編 - シートン俗物記のこの記述

まず、レーザーというのが(発振)効率が低い事は押さえる必要がある。レーザーの投入電力に対する発振出力は最大でも数%にすぎない。

一貫して電力-光効率の悪さを語ってるけど、太陽光励起レーザーなので比べるべきなのは光-光効率。ちなみに、そこらへんは光通信がらみ(レーザーダイオードや光直接増幅)で長足の進歩を遂げていて、この人が研究者やってたときとはレベルが違う。たとえば、お探しのページ (URL) が見つかりません | 株式会社オプトサイエンスを見ると、LD励起YAGの光-光効率は40-50%であることがわかる(ファイバーレーザーにいたっては75%以上)。ちなみに、LD励起YAGは電力-光効率でも30%はあるので、光-光効率はこれくらいないとやっていけない。

つまり、励起光の波長を考えなければ原理的には光-光効率40%は問題ないといえるから、

皆様。自然放出係数(A係数)、誘導放出係数(B係数)の比を考えた場合、モード制御でもしない限り太陽光レーザーで高効率には疑問があります。実際にどうかは判りません。私はトンデモ、とみなします。三年前と同じく。では。

というコメント欄のこの記述は間違いで、わかっていないことが丸わかり。

で、太陽光励起の問題は励起光の波長が広がっているせいで効率的に励起できないということ。実際にフラッシュランプ(蛍光灯のお化けみたいなもの)でNd:YAGを励起した場合には今でも数%の効率にとどまる。でも、それを打開するのがCr添加というわけで、それで少なくとも吸収は稼げて、もしロスなくNdイオンに励起状態を移せれば最高の効率のせいぜい半分くらいの効率でレーザー発振できることは期待できる。実際に、効率的かつ安定的な集光が難しいフレネルレンズ+実際の太陽光の系でもスロープ効率14%を達成している。(doi:10.1063/1.2753119)

あと、このCr添加に関しては、別にあの東工大のグループのみがやっているわけではなくて、複数グループが宇宙太陽光発電所とかを目指して開発を進めていることも考慮すべき。

それと、Mgサイクルについては最初に聞いたときは、太陽光励起レーザーはかっこいいのに何あほなこといってるんだろと思ってたけど、水素社会がくるという狂気を前提にするとそう悪くないアイデアに見えるから怖い。基本的に水素は今は石油とか天然ガスの改質で作ってるんだけど、最終的には太陽の光から直接間接に作る必要がある。だからといって、ただの媒介物でしかない水素を作るのに、太陽電池でせっかく作った電気を使うのは間抜けすぎる。でも、太陽電池で作った電気を直接送電線にいくらでも流せるかといわれると?という現状もある。

その意味では、太陽光を直接、電気と違って保管できて、水素よりもはるかに運びやすいものに変えられるこの技術は、現実に使える効率に仕上がるかは別として、素性としてはそう悪くない。高圧水素タンク積んで水素エンジン回すべとか、バイオマスガソリンエンジン回すべとか言うアイデアに比べたらよっぽどまともだ。

最後に、クラークの第1法則

When a distinguished but elderly scientist states that something is possible, he is almost certainly right. When he states that something is impossible, he is very probably wrong.

Arthur C. Clarke - Wikiquote

わかってる人でもこれなんだから、わかってもない人ができないと声高に騒ぐのはかっこ悪い。