斜張橋の正しい壊し方(アルドノア・ゼロ 第3話)

アルドノア・ゼロ。シリーズ構成が高山カツヒコで脚本が虚淵玄で面白くならないはずがなく,きっちり楽しめている。ただ,長大橋好きとしては第3話で少し気になる描写があった。

途中,敵を水中に落とすために橋に誘い込んで,橋桁を破壊して水中に落下させるわけだけど,その斜張橋が変。

その際の決定的なスクリーンショット

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図にも書いてあるとおり二つ明らかにおかしい点がある。

斜張橋はあの位置に橋脚はいらない

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斜張橋の力の釣り合いはこんなかんじになってる。なので,ケーブルを支える橋脚+主塔と橋桁さえあれば,端が繋がっていなくても斜張橋は成立する。というか,斜張橋を作る時はそれを利用して,まず橋脚と主塔を作ってそれからやじろべえのように橋桁を両端に徐々に伸ばしていって作る。(たとえば,斜張橋,エクストラドーズド橋の架設工法 | 架設工法について | 施工情報 | 一般社団法人 プレストレスト・コンクリート建設業協会 (略称)PC建協

なので,あの位置に支えるべき応力は存在しないので橋脚は要らない。

斜張橋じゃなくて吊り橋だとあの場所に構造物をおいたりするのは意外とあって,それはアンカレッジと呼ばれて吊り橋のメインケーブルを支える役割を有する。南備讃瀬戸大橋と北備讃瀬戸大橋の間にあるアンカレッジがわかり易い例(wikipedia:南備讃瀬戸大橋*1

斜張橋のあの位置の橋桁は壊しちゃダメ

上の力の釣り合いを見れば分かる通り,ケーブルに静的な応力を全部突っ込む吊り橋と違って,斜張橋は橋桁の圧縮応力とケーブルの引張応力の二つで橋桁にかかる荷重を支える。

ケーブルにかかる応力だけを計算すればよかった吊り橋が20世紀初頭からスパン(中央径間)1000m超の橋を連発してたのと比較して,斜張橋は応力の関係が複雑なので,コンピュータによる設計技術の進歩を経てやっとスパン1000m超を達成した斜張橋の違いはここにある。

で,アルドノア・ゼロ 3話の橋桁破壊地点を図にするとこうなる。

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破壊地点が主塔に近すぎる。ちょっと考えれば分かる通り橋桁への圧縮応力は破壊地点から先はなくなってしまうので,破壊地点から先の橋桁はメキメキ壊れて橋全体が崩壊する可能性が高い*2

なので,斜張橋を安全に壊せる場所は主塔と主塔の真ん中と端っこだけということになる。どうでもいいけど,P2でベイブリッジを破壊した場所はちょうど真ん中だったのよね。知ってる人は知っていることらしい。

これも,吊り橋ならメインケーブルにさえ手を付けなければ,ハンガーロープを切ろうが橋桁をどう壊そうが橋の全体的な崩壊にはつながらない。

不要なアンカレッジと言い,吊り橋のはずだったプロットを絵だけ斜張橋に変えちゃったのかなあという気がしてならない。

*1来島海峡大橋のように三連吊り橋ににしてしまえば要らなかったんだろうけど,当時だと設計難しかっただろうし,アンカレッジを置いた島への交通路が必要だったとか色々勘案した結果ああなってるはず

*2:反対側にあるケーブル及び橋桁の張力で支えられる可能性はあるけど,破壊地点があまりにも主塔に近いので支えるには2倍くらい必要だろうけど,安全率2倍も取るかなあと。