シャープのUV2A

日本語があんまりすぎるので,大幅に書き直しました.http://d.hatena.ne.jp/smectic_g/20100102/1262442508

「シャープの液晶は変わる」--次世代液晶パネル技術「UV2 A」を開発 - CNET Japan

no title

最初,上の記事を読んで,名前から想像したのと下を読んでわかる実際がほぼ一緒で受けた.まだ勘は鈍ってないということか.

VAってのは,最初全部の液晶分子が垂直に立ってて,垂直に電場をかけると誘電率異方性が負なので,横に倒れる.ただ,普通の説明だと最初の状態は垂直だということになってるのだが,全体を完全に垂直にしてしまうと,どっちに倒れていいか液晶分子が迷ってしまって,倒れるのに時間がかかることになる*1.また,迷った末に毎回違う角度に傾かれては,輝度が異なるので,ディスプレイにならない.

なので,実際には垂直からちょっと傾けておいて,その角度に傾くようにしておく.どうやって傾けるのかとか,どのように傾けるとかで,同じVAといっても各社いろいろな方式がある.でも,基板に凹凸を作って,その近くの液晶分子を,狙った方向に傾けておく以外のやり方はあまり聞かない.

で,今回のUV2Aは,配向膜を使って液晶を全部狙った方向に傾けてしまおうという方法.これには今回使ったような,光を照射することで,液晶の配向方向を制御する光配向膜が不可欠だったりする.なぜかというと,VAはその特性上,視野角を広げるために,各々の画素を複数の別々の方向に倒れるドメインから構成する必要がある(マルチドメイン).で,普通の配向膜の場合,液晶の並べる方向は,配向膜の上に布を擦り付けて,その方向で決定する.が,これでは各画素ごとに方向を変えるような器用なことは出来ない.

一方,光配向膜ではマスクを通して照射する光の偏光を変えれば,各画素ごとに液晶を傾ける方向を変えることは比較的自由にできる.自分の知る限り,光配向膜は配向規制力が弱いとか,別にラビングでいいじゃんとかいろいろな理由があって,昔から研究はされているんだけど,日の目を見なかった.が,こんな形で表に出るとはという驚きがある(といっても,比較的光配向膜のメリットを生かせる分野ではあるけど).

ただ,ちょっと不思議だったのは,最初に全部の液晶を傾けてしまうと,暗状態で全体がほのかに明るくなってしまわないかということ.もちろん,原理的には上のドメインごとに違う複屈折を持つ補償板をつけることで解消可能だが,まあ現実的でないこと著しい.ということで,簡単に計算してみたら,1度とか2度(傾き方向を決定するだけなら,これくらいで十分なはず)傾けた程度では,何の問題もないことが判明.

以下計算コード.

#! /usr/bin/ruby
class Cell
  attr_accessor :no, :ne, :d

  def initialize(no, ne, d)
    @no = no
    @ne = ne
    @d = d
  end

  def n(t)
    Math.sqrt(1.0 / ( (Math.cos(t)/@no)**2 + (Math.sin(t)/@ne)**2))
  end

  def delta(t)
    n(t) - n(0)
  end

  def int(t)
    (Math::sin(2*Math::PI*delta(t)*@d))**2
  end  
end

a = Cell.new(1.6, 1.7, 10)
puts a.int(20.0/180.0*Math::PI)/a.int(1.0/180.0*Math::PI)

上のコードを走らせると,複屈折が0.1で,初期の傾きが1度として,最大に傾けた角度が20.0度とすると,出るコントラストが単純計算で129000:1ということがわかる.意外と最初の傾きってのは効いてこない.ちなみに,IPSのラビング角度のずれとか,偏光子の角度ずれは1度もずれると,コントラスト比としては問題外になるから,本当に意外.

*1:もう少し科学の言葉で言うと,スイッチングの時に不連続な転移を伴わざるを得ないということ