電力自由化の経済学

電力自由化の経済学 (経済政策分析シリーズ)

電力自由化の経済学 (経済政策分析シリーズ)

スマートグリッド喧しい中、少し古い本(2004年)だけど、読んだ。

内容的には電力自由化について、ノルウェーとPJMを例に説明した部分が多い。時代が時代なので、温室効果ガス削減に向けての視点はほとんどない。前書きにもあるけど、LNGによるコンバインド発電が普及した結果として発電について規模の経済が消滅したので、電力会社のレントを小さくして電力料金を引き下げられないかというのが基本的な問題意識となっている。その意味では、今スマートグリッドを目指す問題意識とはかなり違う。ただ、裏で動いてる経済的な仕組みは同じなので、勉強にはなる。

感想を箇条書きに。

  • 電力自由化するとカリフォルニアのようになるという話は、かなり電力自由化の本質とは離れた議論で、むしろ、電力料金の引き上げを凍結するなど、自由化されていない部分との齟齬がああいう結末につながったらしい。少し反対側からの見解も知りたい。
  • きちんとした監視ができないとモラルハザードが起こりそうだけど、あまりこの本では強調されていない。たとえば、北欧の事例として、最終的に家庭に電力を小売する会社が、検針回数を減らすことでコスト削減をはかっているという話があった。電力の調達価格は毎日変動するのだけど、それを先物市場でヘッジするので、家庭には均一料金を提示できる仕組みらしい。ただ、肝心のリアルタイムでの消費量が測定できないのに、どうやって、先物市場での取引をするのだろうというのが気になった。不正し放題に思えてならない。
  • 原発についてはコストセンターという当時の発想が前面に出てる内容で、今とはだいぶ論調が違っていて驚いた。まあ、WTIが20-30ドルという時代に書かれた本だからしょうがない。
  • 送電会社が送電容量を拡充するインセンティブがまったくないモデルが主張されていて、かつそれが一般的らしいのは驚き。たとえば、ノーダル料金は、発電側と需要側に送電コストを最適化するような設置を促すというインセンティブがあるけど、容量を増やして混雑を解消しても送電会社にとっては手数料としてもらえる絶対額が減るだけでメリットも何もない。今の形態では送電会社を営利企業として分離するのは無理そう。
  • 電気料金を変動させることで、どれくらいの需要が変化するのかについて実証的な議論があまりない。風力発電とか、太陽光の導入量を増やすことを考えると、リアルタイムの需給の均衡のかなりの割合を電力需要の価格弾力性で確保していくほうがスマートだと思うけど、データがないと踏み込めない。
  • 前日入札と、それを補完するリアルタイム市場という形態はどこまで本質的なのだろうか?これを維持する限り、出力を事前に計画できない発電手段は事後的に高価なリアルタイム電力を購入するという形でのペナルティーを払うことになり、いくら原油が上がったとしても再生可能エネルギーはたぶん経済的にはペイせず、その導入は電力市場へのゆがみとなってしまう。
  • 出力変動は電力システムに対してコストになるが、それを需要側に負担させるシステムを個人的には重視しているが、よいアイデアが載っていない。急峻な出力変動は日本特有の病理だから、たぶん日本人が自分で解決するしかない。リアルタイム料金+先物予約は一定以上使いすぎることに対する場合には適切な負担を課すことができるが、使わないことに対してのペナルティーがないので駄目。需要変動を抑えるように、かなり不自然なリアルタイム料金を設定するというアイデアが載っていたが、それが効果的だとして、その価格をどうやってリアルタイム市場で決めるのかについての発想がないと、供給も需要も変動するスマートグリッドが仮定している状況には使えない。
  • 即応可能な電力供給に対して、リアルタイム市場の電力料金は前日入札よりも平均的に高いという報酬が設定可能で、ノルドプールでは実際に存在する。しかし、即応可能な需要に対して報酬を与えるシステムというのは設定可能だろうか?
  • 上二つに限らず、需要側に対して何らかのインセンティブを与えて問題を解決するという発想が(たぶんスマートグリッド後の発想なので)、ほとんどない。経済学的にはこっちの方がラディカルな立論ができるから面白いと思うんだけど。